フレッシュ幹細胞治療において
重要な役割を持つパラクライン効果のはたらき

パラクライン(効果・作用)とは、近接する細胞や組織に直接拡散などにより作用することを言います。

細胞が分泌するエクソソーム、成長因子、サイトカインなどが、近接に存在している幹細胞にパラクライン的に作用し、老化や損傷などによって機能が低下した箇所に細胞を集め、組織再生を起こすことが近年究明されています。
脂肪組織から抽出された新鮮な幹細胞(SVF)は培養(ASCs)された幹細胞と比較してより多様なサイトカインを放出し、さらにはSVFはASCsと比較して有意に多量のサイトカインを分泌しました。
このことは新鮮な幹細胞(SVF)はより多機能なソースであることを示しており、分泌される因子は免疫調節、抗アポトーシス、血管新生、局所幹細胞および前駆細胞の成長と分化のサポート、抗瘢痕化、化学誘引など様々なパラクイン作用を有する可能性があります。

新鮮な幹細胞は、多才な細胞集団です。

新鮮な細胞組成は培養を行うとその量や性質を大きく変化させていきます。
新生血管形成の過程では、新鮮な幹細胞は培養された幹細胞と比較して様々な可能性を秘めています。

  1. 高い生存率と活性
    新鮮な幹細胞は、ストレスが少なく細胞死も少ないため、治療現場での生存率が高い。
    培養すると時間が経つにつれ、増殖力や分泌機能が低下してしまうことがあります。
  2. より自然なシグナル応答
    体内の環境に素早く反応し、損傷部位への指令(サイトカイン)を出す力が強い。
    新生血管形成(angiogenesis)を助ける成長因子(VEGFやFGFなど)の分泌量が高い傾向も。
  3. 免疫調整機能(免疫抑制作用)
    自然な状態の幹細胞は、免疫系とのバランスを取りやすく、炎症の抑制や組織修復に有利。
  4. 細胞外マトリックス(ECM)との親和性
    ECMとの相互作用が良好なため、組織への定着性や機能性が高い。
    組織再構築の「足場(スキャフォールド)」としても活躍。
  5. より安全性の高い選択肢
    培養によって染色体異常や腫瘍化リスクが生じる可能性もありますが、新鮮な細胞ではそのリスクが極めて低い。

M2 マクロファージを含むSVFのSmad23シグナル経路を介した
ヒト軟骨細胞へのパラクライン効果

                            

                     

                    

SVFと共培養した軟骨細胞は、ADSCs と共培養した軟骨細胞よりも有意に高い細胞生存率を示しました。

コラーゲンⅡ とTIMP-3 の同化(軟骨形成)遺伝子発現量は、SVF群で有意に多かった。MMP-13 の異化(軟骨破壊)遺伝子発現量はSVF群で有意に減少した。

M2マクロファージの貢献
SVFに含まれるM2型マクロファージなどの異種細胞が治療に重要な役割を果たすことが確認されました。
M2マクロファージは抗炎症作用を持ち、軟骨細胞に対して保護的なサイトカインや成長因子を分泌し、この分泌こそが再生に寄与する要因となります。

抗炎症サイトカインであるTGF-βとIL-10の値はSVF群で有意に高かった。炎症性サイトカインIL-1βとIL-6 の濃度はSVF群で有意に低かった。

TGF-βおよびSmad2/3経路の関与
SVFから分泌されるTGF-β(Transforming Growth Factor-beta)およびそのシグナル経路であるSmad2/3経路が、細胞の再生において重要な役割を果たすことが確認されました。
TGF-βは細胞の増殖や分化を促進し、修復を助ける因子として機能します。この経路の活性化が治療効果に寄与することが示唆されています。

CONCLUSION(結論)

この研究により、SVF にはさまざまな細胞が含まれ、分泌される因子は多機能的な働きを示していることがわかります。
同化因子(細胞の成長や修復を促進する因子)を促進し、異化因子(細胞の破壊を促進する因子)を抑制することで、細胞の治療効果が高まります。